ダフトパンクがパリの青年だったころ–– Rouléというレーベル––

 フランスのDJたちのインタヴューなどを読んでいるとパリのダンス・シーンは少しだけ複雑なようだ。ロンドンやベルリンをはじめとしたヨーロッパの各都市が地下で各々のダンス・カルチャーを醸成していくなか、パリだけはとくに––〈Rex Club〉を除いてDJがプレイするには最悪の街とされていた。

 そして90年代、その最悪(だった?)パリのシーンの渦中にレイヴやパーティへ潜り込み、ベッドルームで作ったスタジオで音楽をやっている青年がふたりいた。今やグラミーの主要部門を総ナメにし、ビバリーヒルズに住居を構えるスーパースターになった彼らは、当時はまだ人間(?)で怪しいロボットのようなヘルメットも被っていなかった。

ダフト・パンク改めトーマとギ・マニュエルは、当時まだハウス・ミュージックへのリスペクトに溢れた珠玉のポップ・アルバムのリリースすらしていない名もなき若者であった。そこで自分たちの音楽をリリースしようと、ミニマルテクノのレジェンドであるリッチー・ホウティンに自分たちの楽曲を渡し––契約はなかったもののありがたいアドバイスをいただくにいたった。

それは”レーベルを作る”ということであり、それが今回ご紹介する[Roulé]であり、ここから彼らがダフトパンクを始める以前の、素晴らしいハウス・ミュージックが数多くリリースされているのだ。

 片割れのトーマが中心的な役割を果たしており、彼のソロ作品がもっとも多い。とくに『Tracks On Da Rocks Vol.2』は自分のお気に入りで、ダフト・パンクのシグネチャーともいえるハウスにおけるフィルターの妙技を堪能することができる。オープニング・トラックの「Club Soda」はスターターにうってつけの楽曲であり、ソーダ瓶が開く瞬間を捉えたイントロはまさにパーティがはじまる様をうまく表現しているように思う。

また同じくフランスのアラン・ブラクセ。[Vulture]を主催するフランスのダンス・シーンの有名人でもあるわけだがそんな彼も[Roulé]からリリースしていたり、ダフト・パンクによる永遠のマスターピース「One More Time」でヴォーカルをとることとなったロマンソニーも一枚噛んでいたりする。そしてシカゴハウスにおける第二世代のDJ、ロイ・デイヴィス・ジュニアもカタログに名を連ねるが、これはちょっと詳しいことはわからない。

ちなみにダフト・パンクの友人で盟友でもあり、『Rondom Access Memories』ではクローザーとして登場したDJファルコンもここから「So Much Love To Give」をドロップ。フレーズの反復で決め込む最高なディスコハウス・チューンに仕上がっている。

そして、間違いなくこのレーベルにおける最重要曲は、もちろん「Music Sounds Better With You」ということになるだろう。チャカ・カーンをサンプリングしたこの曲は言わずがもな、ハウスのみならずクラブやダンスの枠を超えて認知されているスターダストによるクラシックだ。スターダストはトーマとアラン・ブラクセ、そしてヴォーカルのベンジャミン・ダイヤモンドによるトリオで、たったひとつ、このマスターピースだけを残して去った伝説のグループ(というか一回ぽっきりのプロジェクト)。

 [Roulé]というレーベルはトーマが楽曲をリリースするためのプライヴェートな要素もおおきいため純粋にレーベルとしての評価をすべきでないところはある。そもそもレーベルとしてどうとか、あるいはカタログに並ぶ曲のクオリティがどうとか言いたいわけではなく、それよりもいまやポップスというフィールドで名声を得たふたりが90年代——まだまだ若かったころにレーベルを作り、曲を作り、それを自分たちでリリースしていたという人間じみた試行錯誤のプロレスをこのレーベルから感じられるのがおもしろいのだ。だって以降のふたりは機械になりある種のミステリアスな存在になってしまうからね。そんなふたりがやっていたこと、ハウスやそれに連なるディスコ、ソウルを愛するふたりがやっていたこと、それをどうか心の片隅にとどめておこうではないか。

そしてやはり「Music Sounds Better With You」は12インチで持っておくべきだな、できればこの[Roulé]オリジナルのジャケットで。”君といれば音楽がより良く聴こえる”……いつ聴いてもいい曲だ。

運営維持と質向上のサポートをぜひお願いします。
目次
閉じる