ムーミンことセバスチャン・ゲンツはドイツ出身のDJ(北欧のキャラ、ムーミンとは無関係だと主張している) ドイツ北に位置するキールから10代で小遣いすべてをレコードに費やす生活を送り、ほどなく自身でハウス・ミュージックを制作するようになりました。
彼の名が知れ渡ることとなったきっかけはハンブルクのディープ・ハウスシーンを象徴するレーベル[Smallville]からリリースされた諸作、特にアルバム『A Minor Thought』やレーベルコンピからリリースされたいくつかの上質なディープ・ハウス・トラックによるものです。[smallville]のレーベルカラーはディープ・ハウスであるため、スローで繊細なディープ・トラックは彼のシグネチャーともいえるサウンド。
しかし今作は長らくリリースを担ってきた[Smalllville]を離れ、UKハウスの人気レーベル[WOLF Music]からリリースを敢行。引っさげてきた今作は十八番であるディープ・ハウスを展開しつつ後半では彼のルーツといえる初期のヒップホップやドラムンベースのフレーバーを織り交ぜるなど、かつてない広がりを見せています。
まず、3曲目の「Shibuya Feelings」はなぜ”Shibuya”(渋谷)なのかよくわかりませんが、彼流の日本に対する情景と捉えればいいのでしょうか、今作の中でもっともハードなビートプログラミングだが、単純に反復し続けるコードが妙な中毒性を持っています。また4曲目の「Maybe Tomorrow」はビル・ウィザーズによる「Kissing My love」のドラムスをサンプリング、BPMをあげ彼のノスタルジックなフレーズを重ねた良質なディープ・ハウスに仕上がっており、こちらも聴き逃せない。
また今作の面白い点は後半の4曲、明らかにスタイルの変化が見られ、ヒップホップやドラムンベースのビートで展開しつつ彼が今までのリリースで培ってきたディープ・ハウスの感覚と見事に融合させ、彼の過去と現在をつなげたようなトラックに仕上げています。今作をリリースするにあたって、特にプランを想定せず曲によっては5〜6年前に作られたものもあり、かつジャンルもディープ・ハウスにはこだわらないと明言しています、そのようなオープンマインドで制作されたからこそ、こういったアルバムが完成した理由なのでしょう。
このアルバムの全体を包み込んでいるのは程よいローファイな質感、フェンダー・ローズを思わせるスムースなエレピのコード、そして背後に潜む声の断片的なサンプリング、それらが一体となって、アルバムのアートワークが示す朝焼けにフィットしたムードを演出しています。特に前半の4曲は彼のテリトリーである四つ打ちのディープ・ハウスの美学を体現したトラックが立ち並んでおり、どれも聴き逃がすわけにはいかないクオリティを有しています。オーガニックなディープ・ハウス好きはぜひぜひ要チェックです。