トーフビーツが『Before I Die』をバンドキャンプでプリ・オーダーしていた。それだけの理由でレコメンドするのはおかしいだろうか。もちろん僕の耳で聴いて、たとえばオープナーの”Let’s Sing Let’s Dance”から、「私は悲しい日々に歌う」、「歌おう、踊ろう」と、韓国語と英語を組み合わせたその歌はメランコリックで好みに思えた。K-ハウスなんてくだらない分類をされた彼女ら――ヤエジ、ペギー・ゴウのような韓国の才能たちは、すこし複雑だ。韓国をルーツに持つものの、いまはそれぞれがLA(パク・へ・ジン)、ブルックリン(ヤエジ)、ベルリン(ペギー・ゴウ)と、誰ひとりとして韓国を拠点とはせず、それに、ヤエジにいたっては人生のほんの一部分でしか韓国に住んでいない。だから、K-ハウス(便宜上、使います)の面白いところがあるとすれば、それは韓国から生まれた韓国的なものなのではなく、ある種そこにアイデンティティの分裂が垣間見えるからだろう。それはたぶん、オープナーで歌われた韓国語と英語のせめぎ合いが示していることで、彼女のつぶやくかのようなヴォーカルもあいまって、その音楽は全体的にぼやけているような気がする。DJ? アーティスト? スター? セレブ? パク・へ・ジンというひとがどこに行こうとしているのか、僕にはまったく見当もつかないのだ。 

 RAのレヴューによれば、今作は「21世紀におけるヒップ・ハウス」だと。たしかに、”Let’s Sing Let’s Dance”の足回りはハウス的な四つ打ちであるものの、そこに乗せられるハイハットの譜割りは近年のトラップを想起させるし、”Whatchu Doin Later”や”i jus wanna happy”などは、かなりストレートなヒップホップ・トラックになっている。さらに、”I Need You”のリズムはトラップであるものの、小綺麗なピアノとヴォーカルのループ・ワークは、確実にクラブ/ダンス・ミュージックの作法を踏襲しているし、ピュアなハウス・バンガーであった”ABC”の続編とでも言うべき”Sex With Me(DEFG)”は、歪んだ環境音らしきサウンドがバックで流れる、怪しげで猥雑なハウス・ミュージックだ。極めつけには、”Hey, Hey, Hey”のような歪んだキックを主体に展開する明らかなフロア向けトラックも披露している。たしかに、『Before I Die』は「ヒップホップとハウスの出会い」と形容すべきアルバムだ。 

 曲のほとんどが繰り返し、反復、ループの手法で構成されているが、ビートには四つ打ちだけではない多彩さがあり、楽器面でもシンセ、ピアノ、ギター等々……それらの充実に裏打ちされた楽曲群が、ただの聴き心地のよい音楽には収まらない深みをもたらしている。ある日、彼女のインスタグラムを覗くと、水着姿の投稿で女性的な記号を振りまいたかと思えば、自分と『トイ・ストーリー』のレックスを含めた恐竜のキャラクターたちと並列させ、フォロワーに「あなたの好みはどれ?」と問うていた。ますますわからなくなってきたな、パク・へ・ジンというひとが。 

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