Disclosure『Moonlight EP』

EP

 カムバックしてきた。Twitterで直筆の手紙と共に”必ず戻ってくるよ! だけどそのときまでさようなら”と残した早熟の兄弟は、1年ぶりにファトゥマタ・ジャイワラと組んだシングルで活動再開を正式アナウンスし、ついにこの5曲入りEPを引っさげてやってきたのだ。

どう来るのだろうか、そう無邪気にわくわくしながら「Ultimatum」の次の一手について首を長くして待っていたがここはスピード感をもってEPで勝負を仕掛けにきた、それもかなりフロアユースな仕上がりで。USにおけるEDM現象の追い風もさることながら自分たちの思うダンスミュージックをブレずに展開し、ファーストの『Settle』では見事なまでの傑作を提示、そこにはサム・スミスらを招聘した「Latch」などあくなきまでのフレンドリーさすら貪欲に取り入れた。そしてセカンドの『Caracal』はルーツであるハウスを土台としながらもよりブラック・ミュージックへと接近し、客演のヴォーカル陣はさらに豪華極まりない面々を揃えた。

ここまでして今度は1年間たっぷり休養を取ったらもう、さて次の一手はなにをするのやら。いちファンとしてのささやかな願いはもう一度フロアに戻ってきて、だ。ポップスではなく。

 喜ばしいことに願いは叶ったようだ。カムバックの手土産は豪華なヴォーカルの客演ではない。そこにはジャズやR&Bのサンプリング、ディスコのリエディット、トライバルなビート、およそダンスミュージックの持ちうるエネルギーがふんだんに盛り込まれており、彼らはまずフロアへの贈りものを選んでくれたようだ。

スターターでありタイトルトラックの「Moonlight」からもう良い。ケリ・チャンドラーがさっそく<BBC>のEssential Mixでこのトラックをプレイしていたことからも間違いのないディープハウスであることがうかがえるし、じっさい「I Fall In Love」の断片をサンプリングしたこのトラックは、彼がスタジオで数々のトライ&エラーを繰り返したことが容易に想像できるような丁寧なダンストラックに仕上がっている。つづく「Where Angels Fear To Tread」は間違いなくEPのハイライト。ジャズヴォーカルグループのフォーフレッシュメンをサンプリングしたレトロなフレーバーのジャジーハウス・トラックで、素晴らしいヴォーカリゼーションを中心に据えながら兄弟の緻密なビートプログラミングが冴え渡る。とくに結びのエレピはなんとも心憎い演出だ(ちなみに弟の演奏) 蛇足だがフォーフレッシュメンは兄のガイが早逝したマック・ミラーに提供したビートでもサンプリングしていたり、同じUK出身のジェイミーXXがサンプリングしていたりする、ジャズヴォーカルをサンプリングする流れが来ていたり…?

話を戻そう。つづく「Love Can Be So Hard」は80年代中盤にヒットしたプリンセスによる「Say I’m Your Number One」をサンプリング、原曲よりもBPMをあげファンキーにディスコに決め込む最高なダンストラックに仕上げている。YouTubeのコメント欄ではレザレットなどのDJとの共通点を指摘されているが、確かにディスコ、ソウルやファンクといったジャンルをサンプリングして暖かみの感じさせるグルーヴィーなダンストラックへと昇華させる点が似ている気もする。それにディスクロージャーはお手製のプレイリストに度々レザレットの楽曲を取り上げているしね。そして次の「Funky Sansation」もEPの目玉のひとつではないだろうか、ソウルにおけるもっともファンキーでディープなヴォーカリストとして知られるグウェン・マクレーのリエディットであるが、これもBPMをかなりあげながらよりダンサブルなビートへと差し替えられている。クローザーの「Where Come To From」は<Habibi Funk>というアラブ圏のジャズやファンクをリイシューするレーベルからいくつかサンプリングしており、イントロのヴォーカルは同レーベルよりリリースされたカマル・ケリアの「African Unity」から。カムバック以来初リリースのシングルがマリ共和国のシンガーであったり、プレイリストではラゴスのディスコミュージックを取り上げていたりと、彼ら兄弟の興味がアフリカやアラブ圏といった場所で演奏されていたブラックミュージックに移っていることは明らかだ。

 ディスクロージャーによる『Moonlight EP』はダンスミュージックのベーシックへと立ち戻るような内容であり、まさに彼らのカムバックにはふさわしい作品だったと言える。同時に彼らの過去のフルレングス2作品に比べればホームリスニングにはあまり相入れないような内容でもある、しかしカムバックしてから初めてのまとまった作品がこういった踊れるタイプの音楽であったこと、その事実がただただ嬉しい。最後にひとつだけ、デジタルのジャケはいい感じの質感なんだけれど、アナログのジャケがなんかカードゲームのレアカードみたいな輝きを放っていてあまりかっこ良くない。逆に言えばそこだけが残念な点なんだけどね。

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