”デトロイト・ハウス”と言われて誰を思い浮かべるだろう。やはり、言わずと知れたムーディマン、あるいはそれに連なるセオ・パリッシュ、00年代以降に話を移せばカイル・ホールなども挙がるだろうし、彼を早くからフックアップしたオマー・Sも外せない名前だ。

そんな中、それらの面々と比べると少しだけ顧みられない存在がいる。そう、それは今回紹介するリック・ウェイドのこと。いわゆる”ナード”だったと自ら述懐する少年時代は、両親が好んで聴いていたカーティス・メイフィールドやアイザック・ヘイズのようなソウルから始まり、父と観た刑事モノのドラマのサウンドトラックに大きな影響を受け、母親と一緒にシカゴのラジオに入れ込みほどなくしてハウスの洗礼を受けた。

 フィンガーズ・インク(AKA ラリー・ハード)による「Never No More Lonely」を聴いた経験が彼のDJ、あるいはプロデューサーとしての運命を決定付けたと語ることから彼の音楽には常に”ディープ”な感覚が渦巻いており、その音楽性はときにパーティやフロアのみならず、部屋でたったひとりのシチュエーションまでも射程に入れる感傷的な雰囲気を伴っている。

紹介する『Passion Play EP』も素晴らしいディープネスを有した上質なデトロイト・ハウスに仕上がっており、やはりタイトルトラックの「Passion Play」が素晴らしい。おそらくKorg-T3から繰り出されているであろうシンセサウンド、少年時代に形成されたフェンダー・ローズの暖かいエレピサウンドに対する強いこだわり、そしてワンショットのヴォーカルサンプルを巧みに使いながら空間系のエフェクトをがっちりかけたサックスが展開してゆく大人な楽曲だ。続く「Oh Yeah」や「Inner Most」もタイトルトラックに倣うかのごとくディープでエモーショナルな展開を見せている。

しかし、じつは4曲目の「Zero Ningen」がこのレビューで最も取り上げたかった楽曲。ドラゴンボールZのセルの台詞をサンプリングしたフレーズを軸に展開していくなんともシュールな飛び道具系(?)ディープハウス・トラックに仕上がったとても面白い曲。DJによってはマッシヴな武器としてセットリストを担う可能性を秘めている…かもしれない。

ドラゴンボールに関しては息子とカートゥーンネットワーク観ているときに知ったらしい。しかし人生で初めて買ったCDがドラゴンボールのサントラという情報もあったので、何が正確なのかははかりかねる。ただ確かなのはリック・ウェイドはドラゴンボールが好きだということだ。

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