[Church]を連続でレビューするのはいかにも偏っている、もちろん他のレーベルも他のDJも紹介したい(しなければならない)のは山々だが、[Church]を紹介したならばFYIクリスについてもひとつは言及しなければ(というかしたい)と今回は思い至った。
改めて、[Church]はUKのジャジーでディープなハウス・ミュージックを提供する調子のよいレーベルで、とりわけ才能あふれる若者をフックアップする感度の高さにも定評がある。
今やメジャーの[Universal]が投資するディスクロージャーがポップスへと主戦場を移す前、〈Corsica Studios〉でのパーティで彼らをブッキングしていたという事実は、[Church]の確かな審美眼を示しているように思える。
さらに、ディスクロージャーのふたりのローレンス(彼らは兄弟)に目をつけていたこと、そしてFYIクリスにおいてふたりのクリス(彼らは同名の友人)をフックアップしたことから、[Church]はどうやら特に才気あふれるデュオを発掘することが上手いということも伺える。
FYIクリスは南ロンドンに位置する〈Rye Wax〉のスタッフとして働く傍ら大学では音楽の勉強をしている。さらに両親とも音楽を嗜んでおり、片方の親はジャズの愛好家、そしてもう一方の親はピアノの教師である。そんな筋金入りの経歴から放たれる今作2曲は、きちんとクラブを志向した体を揺さぶるものでありながら心の奥に触れてくるような妙な奥深さをも携えている。
1曲目の「No Hurry」は四つ打ちのキックにスネア、リダクションが施された荒削りのクラップ、そしてリリースが勢いよく絞られたハイハットという至ってシンプルなビートで展開する。それはいかにも機能的なダンスミュージックという面構えで、そこに特別な感覚を抱く人はいないかもしれない。しかしビートの上に挿入される温かい和音やソウルフルなヴォーカルサンプル、それらが組み合わさり絶妙に抜き差しされることによって、トラックに確かな魅力を引き出している。
2曲目の「Juliette」も似たムードで展開する。しかしより煮え切らないムード、作りかけで終わりがないようにずっと続いていくような感覚を思わせ、「No Hurry」よりも一曲の中に明確なピークを作らない点が心憎い演出だ。1曲目同様ごくシンプルなビートが展開するが、タムを巧みにピッチベンドさせた絡みつくようなビートプログラミングが良いアクセントになっており、とても気持ちよい。
彼らは、音楽を作るためのきっかけが偶然手に入れたMPC2000だったそうだ。そこで友人であるクリスと「楽しいものを作ろう」という遊びの気分で彼らはトラックを作るようになった。音楽的なバックグラウンドから、彼らの無邪気な感覚を通して繰り出される2曲が、クラブ仕様の良質なディープ・ハウスに仕上がった点は非常に興味深い。