ご紹介するのは、カナダのトロントを拠点とするレコードショップ兼レーベルの[Invisible City]から再発されたトリニダード・トバゴ産ディスコ『Disco Illusion』です。もともとは[Kalinda]というカリプソの発展に大きく寄与した現地のレーベルからオリジナルがリリースされていましたが、今回のリイシューでは折り入って[Invisible City]が現地まで赴きリリースの交渉を敢行。レーベル自体はトロントに拠点を置いていますが、クルー達は世界中を飛び回り忘れられかけた素晴らしいレガシーを再び世界に紹介すべく、世界中でホコリを被ったしかし宝石のような楽曲を多くリイシューしております。
“ニール・ヤングは好きだけど、トロントじゃありふれているからな“と話すレーベルオーナーのゲイリー・アブガンとブランドン・エドワードは、ありきたりなクラシックを紹介するのではなく、誰も聴いたことのないオブスキュアなサウンドを追い求めることを信条とし、今回はトロントから実に4000km以上も離れたところまで追い求め、ついにある倉庫の箱からこの音源のマスターを発見しました。
今作は2曲入りのシングルリリース、一曲目のタイトルトラック「Disco Illusion」はリードヴォーカルにウェンディ・エリゴンをフィーチャー、そしてキーボードはステファン・エンシナス自らが弾き、その他の楽器隊もトリニダード現地のミュージシャンが演奏しております。オリジナルリリースが1979年というディスコの風が吹き荒れる頃、西インド諸島の国からこのような回答がなされていたこと、そしてその音源が30年以上の時を経て再び日の目を見ることとなったのは非常にドラマチック。ディスコという型を意識しつつ現地のミュージシャンの演奏による神秘的空気感を有した、浮遊感をも感じさせる摩訶不思議なアトモスフェリック・ディスコ・チューンに仕上がっております。
次の「Lypso Illusion」はリードヴォーカルの代わりにスティール・パンを大胆にフィーチャー。「Disco Illusion」での流麗なヴォーカルではなく、まどろむようなスティール・パンを差し込むことによってこの曲が数多くの有名DJのセットリストの一角を担った理由がよくわかります。平坦な四つ打ちのキック、そして時折挟まれるスネアのアクセントがこのトラックに小気味よいテンションを創出し、土着的なパーカッションや這いつくばるように展開するベースラインは、やはりこのトラックがクラブでの使用に耐えうる、間違いのないダンストラックだという説得力を持たせています。
デトロイトハウスのレジェンドであるムーディマン、またソウル狂のモーターシティ・ドラム・アンサンブルによる今作のプレイ、さらにロンドンにおけるかの有名な〈Plastic People〉のクロージングパーティでは、フローティング・ポインツとフォー・テットによって、「Lypso Illusion」が流されました。それだけで『Disco Illusion』がどれだけのDJ、人々からサポートされているかがわかるでしょう、30年前、正式な流通に乗ることはなくステファン・エンシナスによる唯一の作品であった今作は、音楽への情熱溢れるトロントの[Invisible Edition]によって再び我々の耳に届きました。感謝!