00年代以降はなんでも”ポスト”という接頭語を付けるようになった。ポスト・トゥルースといった政治用語にはじまり、音楽でも”ポスト”ダブステップ、”ポスト”ビートダウンといった具合に。

そして今回ご紹介するヴァクラは、それらにおけるポスト・ビートダウンの最重要人物といえる。ウクライナで生まれ今作のタイトルにもなったコノトープという街で育った彼は、ロシアの〈Propaganda〉というクラブで腕を磨き、シベリア生まれのニーナ・クラヴィッツや同レーベルからリリースするアントン・ザップらとロシア、モスクワのクラブシーンにおける重要な役割を担った。

ヨーロッパやUSに行く手段を持っている人を通してじゃなければ、興味深い音楽に出会う方法なんてなかった“と語るヴァクラは、ウクライナのコノトープという一般的には辺境的な場所で育ち、そこにある身近なもの––広がる自然や彼のアーティストネームの由来ともなったウクライナの作家にインスピレーションを受けながら、ロックスターのジム・モリソンの精神性に、そしてモーリッツ・フォン・オズワルドとマーク・アーネスタスによるトラックに魔法と魂を感じ、自身もDJとして、ミュージシャンとしての道を歩んでいる。

 今作でもっとも聴き逃がせないのはオープニング・トラックの「Deep In Mind」。110周辺の比較的スローなBPMで進行するタイトル通りのディープ・トラックだが、時折うかがえるヴァクラ独特の音に対するセンスがディープ・ハウスなサウンドにヒプノティックで少しだけファンキーな要素をも加えている。タイトル・トラックの「Night In Konotop」も無論のクオリティを有している。時折、途切れ抜かれるビート、左右に揺さぶられるエレピのコードが定まらない独特のグルーヴを生成し、彼流の素晴らしいディープ・ハウスが聴ける。

 『Night In Konotop City』とあるように、今作はヴァクラのごく個人的なフィーリングを、生まれ育った街の夜の空気を、そのまま4つのディープハウス・トラックへと落とし込んだ作品だ。ロシアの才人をフックアップすることに長けた[Quintessentials]からリリースし、当時ヴァクラ自身もモスクワで鳴らしていたこと、そして2018年には世界中を飛び回ることを考えウクライナのオデッサに身を構えている事実を鑑みるに、彼の心はもはや故郷のコノトープにはないと思われるかもしれない。しかし今作のタイトル、そして彼の作品集的アルバム『You’ve Never Been To Konotop』からも、コノトープはヴァクラのルーツであり、のっぴきならない事情で故郷から離れているが、彼のホームはつねにコノトープであることがうかがえる。

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